宮澤陽一さん
まさみさん
陽菜さん
1年間の食べ歩きの末に惚れ込んだ、素材の旨味が光る究極のお芋


「お芋スイーツ専門店」を始めようと思ったきっかけを教えてください。
陽一さん:茅ヶ崎の市役所で公務員として勤めていたのですが、退職した後に「何か働きたい」という思いがありました。自分自身の働きがいや生きがいを求めながら、1年ほどかけて何軒ものお芋を食べ歩いたんです。もともと焼き芋が好きだったこともあって、お芋でお店を出すのは、段階的にもいろいろな面で取り組みやすいのかなと思っていました。
たくさん食べ歩いた中で、いまのお芋に出会ったのですね。
陽一さん:はい。その中で一番美味しかったのが「おいもたつき」のお芋でした。私たちは公務員出身で、調理の技術に長けているわけではありません。だからこそ、その味に心底惚れ込み、この本当に美味しいお芋の味を届けたいという思いから、大好きな草津の地でお店を始めようと決意しました。

ショップカードのロゴは娘さんが作られたんですよね?
まさみさん:もともと基本のロゴはあったのですが、草津温泉店バージョンでちょっと違いを持たせようと思って、娘がデザインしました。湯畑の紫などをイメージして作っています。
お芋以外にも、みかんを使った商品などを販売されているのですね。
陽一さん:お芋以外については、私の地元・神奈川の湯河原のみかんを使った商品などをラインナップに入れています。湯河原のみかんがやはり非常に美味しいので、みかんを取り入れたジュースや100%ジュース、ゼリーなども販売しています。

お店で特徴的なお芋のブランドには、何がありますか?
陽一さん:「旭甘十郎(あさひかんじゅうろう)」というお芋ですね。こちらは、やはり肥料が違います。天然のものを使っていたり、土も非常に良かったりするんです。茨城県の旭村で採れる、まさにブランドお芋になります。
美味しいお芋を届けるとともに、お店の運営において陽一さんが大切にしている想いはありますか?
陽一さん:やっぱり、人と人の「絆」ですかね。おいもたつきを運営するにあたって、立ち上げた会社名も「グラーティア」というのですが、ラテン語で「感謝」という意味で、絆を指す言葉です。私の所属するボランティアの団体は「絆」という名前で、やはり人と人との繋がりと、助け合いを、その活動を通して、感じていました。絆というボランティアをつくったのは、私の父でした。私も公務員と働きながら、土日はそのボランティアの活動に参加していたりしてきました。河川敷の草むらだったところを、県や市と連携して舗装を進めたり、地域の皆さんが過ごしやすい環境を整えるという活動内容でした。掃除してても、きれいになって「よかったね」とお礼を言われたりするときが、いつもやってて良かったなと思いますね。
業者が見つからない!? 逆境を「家族のDIY」で楽しみに変えた出店準備

最初から家族でお店を始めようと決めていたのですか?
まさみさん:はい、最初から家族で始めました。もともと主人の両親が草津にマンションを持っていたので、草津には30年以上、年に何回も訪れていまして「草津でお店ができたらいいな」という話が出ていたんです。ただ、草津はアルバイトさんがなかなか見つからなくて、人材確保が大変だという事情もありました。そういった背景もあって「まずは家族で始めてみようか」という流れになり、自然と家族でスタートすることになりました。
お店を出そうと考え始めてから、物件探しなどはスムーズに進みましたか?
まさみさん:お店を出そうと考え始めたのは1年くらい前ですね。

陽一さん:この賃貸の店舗を探すのも大変でしたが、やはり業者さん(施工業者)の調整に苦労しました。店舗物件は決まったものの、いざ内装工事をしようとした段階で、当初想定していた業者さんが変わってしまったり、お願いしていた業者さんからの見積もりが出なかったり、草津温泉からは少し遠い「前橋」の方の業者さんに相談をしてみたり、あるいは「小野上温泉」の方の業者さんだったこともあったのですが、やはりこちらに来ていただくのに時間がかかってしまって、なかなかうまく折り合いがつかなかったんです。本当は昨年(2025年)の7月ぐらいから着工したかったのですが、そういった事情で内装が全く進まなかったという経緯があります。
そのピンチを、どのように乗り越えられたのでしょうか?
陽一さん:内装工事は大工さんや施工業者さんにお願いしていますが、その間に時間があったので、費用を安く抑えるために自分たちで壁紙を貼ったり柱を塗ったりしました。予算には限りがありますので、できるところから少しずつ、本当に自分たちで手を動かしながら進めていったという経緯があります。
準備期間中、大変だったと思いますが振り返ってみていかがですか?
まさみさん:本当に楽しかったです。
陽菜さん:楽しかったです。普段の生活ではできないことなので。

準備期間中に声をかけてくれた人たちの思い出はありますか?
まさみさん:DIY じゃないですけど、それを皆さん見てくれて楽しかったです。例えば、湯畑にお勤めに行かれる道すがらで「いつ(オープンするの)?」「いつなの?」という感じで声をかけていただいたりしました。逆にかえって、そういうことをしていると地元の方たちと触れ合えて、グランドオープンまでに地元の方とお知り合いになれたのは、すごく良かったことだと思います。ここから今の常連さんにつながっている、という感じだよね。
DIYは誰かに教えてもらって進めたのですか?
陽菜さん:基本的にはYouTubeを見ながらですね。あとはもう、家族みんなで試行錯誤しながらの自己流です。

試行錯誤の中で、一番楽しかった作業は何ですか?
まさみさん:家族みんなでやった壁紙貼りですね。
陽一さん:一番綺麗に貼れていたのは娘なんですよ。家族の中で一番器用でして。
「最後は温泉に入って忘れちゃう」湘南と草津を結ぶ、本音でぶつかり合う家族のカタチ
あらためて、出店するのが草津でなければいけなかった理由を教えてください。
陽一さん:草津は、やっぱり温泉。豊かな温泉の「量」がありますよね。お湯が良いというところと、あとは、草津の中の「自然」ですね。自然がすごく豊かで、白根のほうの山や、スキー場があるのもそうですし。おいもたつきの店舗がある場所も、周りに自然が豊富にあるというところもあって、とても「癒される」という部分があります。「温泉」と「自然」。これがやはり草津町の売りなのかな、というのは思います。

草津と神奈川の地元で、何か違いや共通点はありますか?
陽一さん:藤沢なので、江の島のあたりなんですよ。草津なんかは、自然が豊かで、山や森林が豊かですが、江の島は、もうそこは、海ですね。草津は、温泉から出る煙に「酸」が多く含まれていて、機械だとか車を錆びさせてしまう。だけど、江の島の方は、塩、塩害。どちらも機械が壊れやすい場所という、共通点はあるかもしれません(笑)。
神奈川県の藤沢から草津まで、どのように通っているのですか?
陽菜さん:はい、一人で新幹線で。長野原草津口までバスで行って、高崎まで乗って、そこから東京まで新幹線で、そこから新横浜まで新幹線で行って、そのあと色々電車乗って、藤沢まで。4時間くらいですね。移動中も乗っているだけじゃもったいないと思って、SNSなどの仕事を新幹線のなかでやりつつ、あとは学校の課題などもします。
ご両親は車で通われているのですね。
陽一さん:我々は車です。車でも4時間近くかかりますし、買い出しなど寄って移動すると、4時間半から5時間くらいかかっちゃいますね。一応車も、自動運転がついているような車にしないと、なかなか高速が疲れますよね。今は自動運転の車で、手を添えるだけでいい、といった運転の環境で通ってます。
家族で働き始めてから、お互いの意外な一面に驚いたことはありましたか?
まさみさん:SNS関係は全部娘に任せているんです。私たち親世代にはあんな発信は到底できないので、本当にすごいなと思います。娘は神奈川の方で大学に通っているので、お店が終わると帰るんですよ。大学に行っていても私から、LINEで「こういうの作って」とか連絡をしてます。
陽菜さん:そう!それで授業中に作って、ストーリーを上げたりしています。楽しいですし、自分の仕事の一つだから自分がやらなきゃいけないという、ある意味での責任感が、逆にうまく働いているというか。いい作用を及ぼしているんだな、感じています。
SNSで発信する際、どんなことを意識していますか?
陽菜さん:商品の良さが、文字でしか書けないからこそ、それをいかにどう発信できるかで、お客さんのその商品に対しての印象も変わりますよね。とにかく「食べてほしい」と思えるような、「美味しそう」と思ってもらえて、ちょっとでも目に留まるようなものを意識しています。

一緒に仕事をしていて、意見が食い違ったり喧嘩になったりすることはありますか?
陽菜さん:しょっちゅうだよね。毎日だよね(笑)。
まさみさん:結構あるんですけど、というより結構どころじゃないですね。しょっちゅうです。でも何かと聞かれると思い出せない・・・すぐ忘れてしまいますね。
我慢はしない。我慢はしないから、逆に忘れちゃうんですよ。まあ、最後にもう一日温泉に入って、忘れちゃう。朝には「がんばろうー」と。
お休みの日や、ご家族の共通の趣味はありますか?
まさみさん:娘が今大学2年生なのですが、エレクトーンをずっとやっています。あとは高校のころから、和太鼓をやっていたんですよ。それを、応援するのが趣味だね。出る公演に行ったり、コンクールとか、休みはずっとそんな感じで過ごしてきたね。
「行ってきます」と旅立つ背中を見送る、草津の小さな“実家”
草津の町で、助けられたり優しさを感じたりしたエピソードはありますか?
まさみさん:本当に皆優しくて、協力してくれて。地元のかたもそうですし、移住者の方々も優しい。困っていること、わからないことがあると、親身になって相談に乗ってくれて、調べてくれる。助かるのは、人と人とのつながりを、繋いでくれるという、そういうところが、すごい助かるところですね。
今の店舗物件も、そうした「人の繋がり」で決まったそうですね。
陽一さん:そうなんです。当初は、いつも滞在している草津のマンションの前に、お店を出したいと管理人さんに相談をしていたのですが、そこがあまりにも古くて使えないという形で、代わりに今の場所を繋いで紹介してもらいました。ここを借りることができたのも、その管理人さんの存在があってこそです。おいもたつきの店舗が入ることになった建物は、昔は「あぶら屋」さんというお蕎麦屋さんだったんです。オープンにあたっても、すごく応援をしてくれました。
店舗の斜め前にある「草津熱帯圏」の方々とも交流があるのですね。
陽菜さん:草津熱帯圏さん公式の、youtubeやInstagram、tiktokにも、うちのお店のことを乗せてくれたり、しょっちゅう来てくれて、たくさんお話をしてくれます。熱帯圏さんのInstagramやtiktokは、草津温泉のなかでももっともフォロワーが多くて、人気のアカウントです。それを見て、うちのSNS運用の参考にさせてもらったりしました。
まさみさん:DIYで工事をしているときに、園長の今井さんが話かけてくれて、「何やるの?」といった感じで。たまに、「どうだー」と声をかけてくれたり、「最初は売れなくてもしょうがない時期だよ」と励ましてくれたりしてくれます。オープンしてからは、飼育員さんたちが、休憩をしにくるみたいな。

お店をオープンしてから、失敗談やピンチはありましたか?
まさみさん:ピンチは色々とあったと思うのですが、お客さんが優しくて寛容なので、乗り越えてきちゃった気がします。例えば、うちでお出ししているケーキは冷凍で届くので、解凍してからお出ししているんです。
陽菜さん:どれくらい解凍しておけばいいか、読めないときがあるよね。解凍しすぎても日持ちがあまりしないから、余ってしまうとダメになってしまう。それで少しずつ出していると、お店が忙しいときに解凍が間に合わなくなってしまう日があって……。
まさみさん:そうなんです。こちらとしては「注文に間に合わない!」と大ピンチなのですが、まだ解凍が終わっていないことをお客様に正直にお伝えすると、「いいのよ、うちで解凍するから!」「ちょっとぐらいシャリシャリでも食べれるから!」と言ってくださるんです。本来ならお叱りを受けてもおかしくない場面なのに、お客さんの優しさでなんとかなってしまった、という経験が何度もありましたね。もちろん間に合わないのはダメだと反省しているのですが、本当にありがたいです。
お客様にとって、「おいもたつき」はどのような場所になっていますか?
まさみさん:私たちが半年ほど前にこの土地にやってきてお店をオープンしてから、みなさんが「実家みたいだね」とか「田舎のおばあちゃん家に来たみたいだ」って、結構言ってくださるんですよ。店内の手作り感ある雰囲気もそうなんですけど、一人で旅行をしている方や、リゾートバイトで草津に来ている方によく言われますね。リゾートバイトの方って、基本一人で見知らぬ土地に働きに来るじゃないですか。そういう人たちが、一人でふらっといらっしゃったときに「あー、実家みたいだなぁ」って、ホッと一息ついてくださることが多いんです。

陽菜さん:Googleの口コミにも、「アットホームな場所」というのはたくさん書いていただいているよね。
まさみさん:外国の方も「アットホームだ」って口コミを書いてくれていたね。そう言ってくつろいでもらえる今の温かい感じを、これからもずっと保てたらいいなと思っています。
実家や「おばあちゃん家」のように感じてもらえる理由はどこにあると思いますか?
陽一さん:店の感じもそうですけど、やっぱりね、コミュニケーションを取ることだと思うんですよ。どの方にも話しかけて、こちらからも気持ちをひらいて明かしますし、「どこからきたのー?」とか、そういうコミュニケーションが、そういう雰囲気をかもしだしている要因なのかもしれないです。
リゾートバイトの方も多いのですね。
まさみさん:リゾートバイトの方だと「契約が終わって、〇日に帰ってしまうんです」「もう終わりだから、最後にきました」とか。そういうときは、ちょっとサービスして「がんばってねー」と見送ってあげる。「また戻ってきますー」と旅行の方なども言ってくれたりしますね。そういった出会から、SNSのDMでまだつながっていたりもします。
今後、お店で「これをやってみたい」といった野望や計画はありますか?
陽菜さん:お客さんから「こういう商品がほしい」といったアンケートをとって、商品開発してみたいです。今は答えてくれるだけのSNSのフォロワーがいないからできないけれど、ゆくゆくはフォロワーさん向けにやってみたい。

陽一さん:ここは少し湯畑から離れているので、町の中心部などに出張して出店するような取り組みもしていきたいと考えています。
まさみさん:そうやって実家のように、気軽に訪れてもらう。そのためには、皆さんが望むのであれば、そのほかのメニューは増やしていきたいなと考えていたりします。お芋以外のもの。ちょっとしたご飯とか、あるといい。「ご飯ないのー?」とおっしゃる方も多いし。
最後に、メッセージをお願いします。
まさみさん:ゆっくり休みたいな~と思ったら、当店に来てください。2月のスキー場がいっぱいのときに、ここにたどり着いて、「ゆっくり休めてよかった」って。なので、やっぱり疲れたら、来てください。
陽菜さん:ゆっくり休める場所です!
陽一さん:自然と、心が和むような場所。そういう場所がつくれるといいなというふうに思いますね。草津温泉での開店を考えた時に、何度も無理かなという時もありましたが、自然と助けてくださる方々や物事が滞った時にも自然と解決できたり、無理に逆らわず流れに任せていたら、今に至ったと言う感じでした。思い出したのですが、当店のお客様はお店を出ていかれる時「行ってきます!」と言ってくださるんです。これからも、「行ってきます」「いってらっしゃい、楽しんで!」という当店の雰囲気を大切にしていきたいと思っています。

【編集後記】
草津の冷たい風をふき飛ばすような、宮澤さんご一家の朗らかな笑い声。湘南の海風香る藤沢からの片道4時間半の道のり、終わりの見えないDIY……決して平坦ではない道のりの中には、常に前を向く家族のたくましさがありました。陽一さんが大切にする「感謝(グラーティア)」の精神はそのままお店の空気となり、草津を訪れる人々の心を温めています。「行ってきます」と店を出るお客様の言葉には、必ずまたここへ帰ってくるという約束が込められているように感じます。藤沢と草津を繋ぎ、本音でぶつかり合いながらも笑顔で乗り越えていく宮澤さん一家。彼らが手作りで育むこの居場所は、これからも草津の町に新しい「絆」の輪を広げ続けていくはずです。