野上理加さん
山中さつきさん
“思い立ったら行動する”父と姉妹が一緒に立ち上げたカフェ
今日はよろしくお願いいたします! とても素敵な雰囲気のお店ですね。
野上:ありがとうございます。店舗は自宅を改装していて、カフェスペースは元々リビングと祖母のお部屋だった場所なんです。天井は当時のままを残しています。
お二人は生まれも育ちも草津町なのでしょうか?
野上:はい、そうです!私は中学を卒業後は地元を離れ下宿先から高校に通い、卒業後は東京のスポーツクラブで働いていました。
山中:私もです!中学までは草津で過ごしましたが、私の場合、高校に入学するタイミングで母が草津を出て下宿業を始めたので、そこから通っていました。その後、東京にある服飾系の専門学校を卒業し大手デパートで働いていたのですが、その頃は姉と都内で2人暮らしをしていたんですよ!
仲良し姉妹ですね。何がきっかけでお店をオープンすることになったのですか?
野上:公務員だった父の早期退職と私の仕事の節目が重なったのをきっかけに、何か一緒にできることを探していました。私たちは「こういうお店がしたい!」という明確な理想があったわけではないので、高崎市にあるイタリアレストラン「カフェ・ド・プランタン」で修業させてもらい、料理や運営ノウハウを学びました。
山中:このお店は父と姉と妹が、1996年に始めたお店なんです。私は途中から携わることになりました。
店名の「ASPEN」はどういう意味なのでしょうか?
野上:「アスペン」は、アメリカのコロラド州の地名です。富裕層が集まる高級リゾート地でスキーができたり避暑地だったりと、草津と共通点が多いことからアイデアを得ました。あと、「あ」は五十音の一番初めなので、探しやすいかなと思いまして。父が決めたんです。
断捨離したら自分たちがやりたいことが見えてきた
お店のこだわりはどんなところでしょうか?
野上:お店をオープンした時、明確なコンセプトが思いつかなかったので、修業先で習ったメニューをそのまま提供していました。ですがある時、改めて「ASPEN」のメニューを見直すと、群馬県産の小麦など産地を意識して食材を選んでいるということに気づき、これはお店のこだわりにできる! と思いました。今ではそのコンセプトを踏襲し、可能な限り作り手の顔が見える生産者直送のお米や野菜を選んで使うようにしています。
どのようにして生産者さんとの関係をつくっていったのですか?
山中:野菜の生産者さんに関しては、カフェのお客さんだったんですよ。嬬恋の農家さんがカフェに足を運んでくださったのをきっかけにお付き合いが始まって、今ではうちの専属農家さんとして野菜を購入させてもらっています。その農家さんが無農薬で育てるトマトは本当に甘くて美味しいんですよ。
野上:トマトは熟す前に出荷するのが普通ですが、ここの農家さんからは完熟した状態のものを仕入れることができるので、しっかり濃い味のトマトが楽しめます。料理にも使っていますし、店舗販売も行っています。
店頭でお野菜が販売されているのは、そういう背景からだったんですね。
野上:そうなんです! 今日並んでいるトマトは今朝収穫したものです。
ここでしか出会えない食材を楽しめるのは素敵な特徴ですね。
山中:野菜農家さんに出会ったおかげで、メニューも少しずつ変わってきました。夏期限定で旬の野菜をたっぷりのせた「サラダピザ」をメニューに取り入れましたが、今ではすっかりうちの看板メニューになりました。お客様の中には毎年サラダピザの登場を楽しみに待っていてくれる人もいるほどです。
地元野菜の味を楽しめるのは最高ですね!他の人気のメニューも教えてください。
野上:冬になったら「重ね煮」というスープを冬季限定で提供しています。野菜をベースにした料理で、調味料は塩しか使っていないんですが、素材の持ち味をしっかり引き出した味に仕上げています。こちらもファンが多い冬季限定メニューで、おすすめです。
山中:あとはハンバーグも人気メニューですね。家族全員ハンバーグを注文する常連の方もいるんですよ。
山中:最近は映える食べ物が流行していますが、そういう料理は意外とカロリーが多かったりするんですよね。年配の常連さんも多いので、映えよりも身体にいいものや安心して食べられるものを優先して提供しています。子どもを持つ親御さんからは「ここの野菜なら安心して食べさせられます」と感謝されたこともあり、嬉しい限りです。
野上:なんとなく始めたカフェだったけど、だんだん方向性が固まってきた感じがしますね。
野上:私は断捨離Ⓡトレーナーとしても活動しているんですが、お店の経営も「引き算」が大事と感じることがあります。
これまではメニューも料理(調味料)も増やしていくことばかり考えていたのですが、どこかうまくいきませんでした。そこでコロナ禍を経てテーブルも減らし、空間にも余裕を持たせることにしました。前は冷蔵庫や本棚があったり、店内が窮屈だったんですよ。まずは、そういうところを断捨離して全部引き算していったら、自分たちのやりたいことが明確になってきました。何がしたかったか分からずに膨れ上がってしまったものを引き算していくことによって、自分たちの理想が実現してきましたね。
山中:それまでは湯畑の人気店やライバル店と比べて焦ってしまうこともあったのですが、そういった不安が全くなくなりました。
断捨離ってモノだけではなく、お店づくりにも効果的だとは知りませんでした。ちなみに、野上さんはなぜ断捨離を始めようと思ったのですか?
野上:10年ほど前、何か日々のストレスを解消する方法はないかなと思って調べた時に出会ったのが断捨離だったんです。当時は断捨離トレーナーを目指していたわけではなくて、ひたすら本を読んだり講座を受けたりして、自分のために学んでいました。進めていくうちに効果を実感し始めて、「もしかして断捨離って片付けだけではなく、いろいろな場面で役に立つのかも」と思うようになりました。
具体的にはどのような効果を実感したのですか?
野上:目の前にあるものを断捨離することで心がスッキリしてくるんですよね。ストレスが溜まっていた時の部屋は汚れていましたが、部屋を綺麗にしたら心も整っていくのを感じたんです。その喜びをいろいろな方にも届けたいなと思って、断捨離トレーナーの資格を取ることにしたんです。
山中:ちなみに姉は群馬に2人しかいない、断捨離の提唱者・やましたひでこ公認の断捨離トレーナーなんですよ!
すごいですね!山中さんもカフェ経営以外に何かされていたりするんですか?
山中:私はカフェのメニュー表のデザインや、SNSで投稿する画像なども作成しています。服飾学校を卒業しているので、店で普段使っているエプロンやコースターなども手作りすることもあります。今日は取材が来るって聞いたので、恥ずかしくて購入したエプロンを選んでしまったのですが……(笑)。
最近では知人から、shopカードや名刺、チラシも頼まれる事があり楽しく制作しています。
今日お二人が着けていらっしゃるピアスもお揃いで可愛いですね。もしかしてこちらも山中さんのお手製なんですか?
山中:ありがとうございます! これは私の手作りではないんです…姉の友人がマダガスカルで女性の雇用支援の仕事をしていて、現地の方のハンドメイドのオリジナルのバックやアクセサリーの販売支援サポートをしているんです。このピアスはそのアイテムのひとつでラフィア椰子の葉で作ったものです。彼女と野菜農家さんで集まって、春と秋の年に2回、小さなマルシェを店内で開催したりしています。
野上:お花屋さんからもマルシェに参加したいと声をかけていただいたりと、少しずつ仲間が増えていっているんですよ。
ご両親のことを「思い立ったら即行動するタイプ」とおっしゃってましたが、お二人も本当にいろんなことにチャレンジしていますね!
山中:言われてみれば、本当ですね!
野上:湯畑周辺のような観光客に向けた取り組みと同じ商売の仕方をしててもダメだなと理解していて、私たちは草津で働いている人や、自分たちが楽しいと思えることをしていくのが向いているなと考えています。
山中:お店を長年続けていると、さまざまな出会いがあって楽しいです。お客様の中には、草津を離れて何年も経ってから、また遊びに来てくれる方もいるんですよ。30年近く営業しているので、当時幼かった子どもが大人になって自分の子どもを連れて訪れてくださったりすると感慨深くなりますね。
野上:意外とおしゃべり目的の方も多いですね。「今日、カウンターは空いてる?」って連絡がきたりします。
お二人共、話しやすい雰囲気なので分かる気がします!
野上:店に来る前よりちょっとでも笑顔で帰ってもらえたらいいなと思っているんです。こだわって食材を選んでいる理由もそうですし、居心地の良さも大事だなと思いながら、お店に立ってます。
山中:悩みを抱えてそうなお客様がお料理や私たちと会話をする中で、少しずつ笑顔になってくださる時があるんです。その度に嬉しい気持ちになります。
「くさつびと」は100%で生きている人が多い?!観光地なのに常連客ができる理由とは
社会人になってUターンされたお二人から見て、草津町ってどんな町だと思いますか?
山中:離れてみて気づいた良さは、草津のコンパクトさです。徒歩20分圏内に病院、スーパーなどなんでも揃っているんですよね。住みやすいですよ。
野上:友人が草津に遊びに来てくれた時に「近所に挨拶できる人がたくさんいるってすごいね」って言われたことがあって、目からうろこでした。確かに今の時代、道を歩いていても挨拶を交わせる関係性の人には滅多に出会わないですよね。草津はUターンの人も多く、同級生や先輩など頻繁に知り合いに出会うので、安心して生活することができます。住民は6,000人ほどの町なので、このこじんまりさは良いところだなと思います。
山中:あと、みんな働き者ですよ。
野上:そうそう、働くけど遊ぶ人が多いイメージ。朝早くから起きて仕事をしてるのに、お店を閉めた後も朝方まで飲みにいく人もいますね。
山中:100%で生きている人が多いのかも!
野上:草津の人は誰でもウェルカムの気質もある気がします。店員とお客様が仲良くなることも結構多くて、観光で訪れた人が常連客になるってケースも珍しくないんですよ。
みなさんパワフルですね!でも、まずは地域の人たちが元気じゃないと、地域も元気にならないですもんね。
野上:この数十年で草津は大きく変わってきています。今や湯畑周辺は観光地と化して、よく若い人たちが浴衣で出歩いてますが、昔はおじいちゃん世代や社員旅行の方ばかりだったんですよ。
山中:全然違うよね。昔は若い世代の観光客なんていなかったもの。
野上:若い人たちが湯畑のライトアップや映える食べ物の写真を撮って、SNSにあげるのをよく見かけますね。なのにうちの常連さんは全く写真を撮らないのなんでだろう(笑)。
山中:むしろ常連さんから「TVとかで取り上げられないでね」とさえ言われるよね!混むとゆっくりできなくなるから嫌なんだって。そんな事ないので宣伝してほしいな。
「ASPEN」さんが常連さんにとって本当に居心地がいい場所だからこそのリクエストですね!
優しく包み込んでくれる人が多く集まる草津町
今後チャレンジしていきたいことはありますか?
野上:私は草津町で断捨離講座を続けていきたいですね! コロナの影響で対面講座からオンライン講座に切り替わった頃に認定トレーナーになったので、私の生徒は遠方の方が多いんです。これからは草津町の人たちにも断捨離の素晴らしさを広めていき、少しでも心が楽になる人を増やしていきたいですね。
山中:私はものづくりが好きなので、ミシンカフェも定期的にやっていきたいですね。元々祖母の部屋だった店内スペースは半個室になっているので、姉や私のスキルや興味関心を活かした講座もしていきたいなと考えています。
そのスペースを活用してご自身の活動する人が増えるのも理想的です。東京と比べると地方はエンタメ要素が少ないですが、自分で自分のことを楽しませる行動って大事だと思うんです。多くの人に「ASPEN」の場をうまく活用してもらい、人と人がつながっていく場にできたら嬉しいですね。
野上:たとえば、お母さん世代や町で働いている人たちは、都内で開催しているセミナーや講座に気軽に行けませんよね。ですが、スペースがあれば東京のイベントを草津町に持ってこられるかもしれません。そういった使い方も出来たら理想的です。
最後に読んでくださっている草津ラバーの方々にメッセージをいただけますか?
山中:持論ですが、旅の記憶は、観光の有名どころよりも地域の方と楽しくおしゃべりした時の方が強く印象に残る気がします。草津町はそれを体験できる場所。ぜひ地域の人々とのコミュニケーションを楽しんで帰って欲しいです。
野上:地元企業や個人店がほとんどなので、地元の人と出会う機会が多いのも魅力だと思います。草津町に観光にきたら、ぜひ誰かに話しかけてみて欲しいです!それだけで草津の楽しみ方がすごく広がると思います。
そして、もし旅先で困ったことがあったら、安心して近くのお店に飛び込んで助けを求めてくださいね。「くさつびと」は本当に温かい人が多いので、絶対に親切にしてくれると思いますよ。