湯路広場に並んだ、「また会いたい」が生まれる16の小商い
「草津の魅力は、“人”だと思うんです」
そう話すのは、CO-AKINAIマルシェの発起人であり、草津温泉コワーキングのコミュニティマネージャーを務める宇原妃那(うはら ひな)さんです。
「草津に住んで4年目になりますが、最近は『あれが食べたい』『これが欲しい』というより、『あの人に会いたいから』という理由で町内のお店に足を運ぶようになりました。草津には、それぞれに信念を持ちながらもイキイキと活動している人が多くいて、どこか家族のような温かさがあるんですよ」
今回のCO-AKINAIマルシェ春場所では、まさに妃那さんの言葉を体現するかのように、“会いたい人がいるまち”という感覚が、会場のあちこちに広がっていました。

イベント当日。
前日から降り続いた雨は朝方まで残り、湯畑周辺は霧に包まれていました。曇り空の下で始まったマルシェでしたが、時間が経つにつれて少しずつ空が明るくなり、人が集まり始める頃には晴れ間ものぞき始めます。
会場となった湯路広場には、食・飲、暮らしの品の販売、体験、整い(リラクゼーション)といったさまざまなジャンルで活動する、16の小商が出店。それぞれのテントでは、さまざまな出会いが生まれていました。
「土日しか営業していないコーヒースタンドが出店していると聞いて来ました」
そう話してくれたのは、湯畑近くのホテルで働く女性です。

「草津は観光の町なので、私たちも土日に仕事があることが多いんです。気になっているお店があっても営業時間が合わなくて、なかなか行けなかったんです。今回は職場の近くで出店していると聞いて、休憩時間でお邪魔できたのがうれしいですね」
観光客が行き交う湯畑のすぐ隣で、地域で働く人たちが立ち寄り、店主と会話を交わす。観光地の中心にありながら、どこか日常の延長のような時間が流れていました。

気づけば会話は商品の話だけでは終わりません。やがて暮らしや仕事、草津との関わり方へと広がっていきます。会話が弾むほどに、商品と一緒にその人自身の魅力も伝わっていきました。

イベント後半になると、出店者同士が互いのブースを訪ねる姿も目立つようになります。
「どのような活動なのか、お話ししてみたかったんです」
「今度一緒に何かできるかもしれませんね」
出店者同士もまた、この日をきっかけに新しいつながりが生まれていました。
草津で挑戦したいと思う人たちが出会い、新しい関係性が生まれる。CO-AKINAIマルシェは、小商いをきっかけに、人と人をつなぐ場になっていました。

夕方が近づき、完売の札が並び始めても、会場のあちこちでは会話が続いていました。
「次はお店にも伺います」「また草津に来ます」
そんな約束が交わされるたびに、この日生まれたつながりが、マルシェの先へ続いていくようにも見えました。
湯路広場に広がっていたのは、単なるマルシェの賑わいではなく、「また会いたい人」が少しずつ増えていく草津の新しい風景でした。
「草津でチャレンジしてみたい」その最初の一歩をつくる

CO-AKINAIマルシェは、ある日突然生まれた企画ではありません。
その背景には、草津温泉コワーキングが日々の活動のなかで耳にしてきた、地域のさまざまな声がありました。
2024年2月にオープンした草津温泉コワーキングは、単なる仕事場ではなく、「地域の外から来た人」と「地域で暮らす人」が出会う場所として活動を続けてきました。
その取り組みの一つが、定期的に開催している交流イベント「移住者ナイト」です。
移住者や二拠点生活者、地域住民など、草津町に関わる人たちが立場を超えて集まり、テーブルを囲みながら語り合う。その場では、草津での暮らしや仕事の話だけでなく、「これからやってみたいこと」を話す人も少なくありませんでした。
「いつか自分のお店を持ってみたい」
「草津で活動してみたいけれど、何から始めたらいいか分からなくて」
「商品はあるけれど、まず誰かに知ってもらう機会がほしい」
そんな声を聞くなかで見えてきたのは、挑戦したい人はいるのに、その最初の一歩を試せる機会が少ないということでした。
「草津には何かを始めたい人がいる。でも、試せる場所や、自分の活動を知ってもらう機会が少ない。だからまずは、小さくでも挑戦できる場が必要だと思ったんです」
妃那さんはそう振り返ります。

商品を売ることだけでなく、人と出会い、地域との接点をつくる。そのための小さな挑戦の入口として企画されたのが、CO-AKINAIマルシェでした。
2026年3月には、草津温泉コワーキング内でCO-AKINAIマルシェを開催。婦人会による回覧板での告知など地域の協力もあり、これまでコワーキングを利用したことのない住民が訪れる機会にもつながりました。出店者と来場者の交流が生まれ、確かな手応えを感じる機会になったといいます。
その経験が、「もっと多くの人に開かれた場所で開催したい」という次の挑戦へとつながっていきました。開催場所を検討するなかで候補に挙がったのが、草津温泉の中心地・湯畑の隣に位置する湯路広場でした。
湯路広場は、観光客だけでなく、地域住民や町内で働く人たちも多く行き交う場所であり、今回のマルシェが目指す「人と人が出会う場」として、これ以上ない場所にも思えました。

CO-AKINAIマルシェを支えた、地域とのつながり
一方で、湯路広場での開催を実現するためには、多くの関係者との調整と理解が必要でした。これまでは町のイベントで使われることが多く、民間主導によるイベント開催は前例がほとんどなかったためです。

そこで妃那さんたちは、草津温泉観光協会DMO人材育成部会へ相談を持ちかけます。同部会は、地域で働く人材の育成や定着、移住・定住の促進に取り組む団体です。CO-AKINAIマルシェの「草津町で挑戦しようとする人たちの裾野を広げたい」という趣旨に共感し、協賛という形で開催を後押ししてくれることになりました。
「地域団体が私たちの取り組みを応援してくれることは、開催するにあたって心強く、支えになりました」と妃那さん。

さらに当日を支えたのは、こうした公式な支援だけではありませんでした。
来場者からは「数日前にカフェで聞いて来ました」「バーの店主に教えてもらったんです」「草津に住む友人に勧められて来ました」といった声が多く寄せられました。
人から人へ。
こうした広がりは偶然というよりも、地域の中で育まれてきた関係性の延長線上にあったものなのかもしれません。

会場で見られた賑わいの裏側には、多くの人たちの応援がありました。
そしてその光景は、草津温泉コワーキングがこの2年あまり、交流イベントや地域メディア「くさつびと」の運営などを通じて積み重ねてきた「人と人をつなぐ活動」が、少しずつ地域に根付き始めていることを感じさせるものでもありました。
中には、店番で現地に来られなかった地域住民が湯畑のライブカメラ越しに様子を見守り、「思ったより賑わっていてよかった」と反応していたという話もあったそうです。
人から人へと広がる応援や関心もまた、このマルシェを支えていた大切な力のひとつでした。
ここから新しい挑戦が“湧き出して”いく
草津温泉コワーキングでは今後も、CO-AKINAIマルシェを継続していく予定です。

妃那さんは、草津町で何かを始めたい人や地域に関わりたい人が、「まず小さく試せる」機会を増やしていきたいと話します。
「いきなりゆかりのない土地で物件を探したり、移住を決断したりするのはハードルが高いと思うんです。ですが、CO-AKINAIマルシェを通じて、まずは一日だけ出店してみるとか、イベントに参加して地域の人と触れ合ってみるように、小さく関わることならできる。その最初のきっかけをつくっていきたいですね」
草津町では2026年5月から移住コーディネーターも設置され、外からの関わりを受け入れる体制づくりも進んでいます。観光を起点に交流人口から関係人口、そして定住へとつなぐ流れも含め、町としても多様な関わり方を進めています。
こうした町の動きにも後押しされながら、妃那さんは、移住や二拠点生活、小さな商いなど、草津との多様な関わり方を育んでいきたいと話します。
「今後は、CO-AKINAIマルシェを入り口に、週末出店や短中期のポップアップなど、挑戦のグラデーションを広げていく。その仕組みづくりにも取り組んでいきたいですね」

人と人が出会い、人とまちがつながり、「やってみたい」が少しずつ形になっていく。
その関わりのグラデーションの先に、草津にはこれからも“また会いたい人”が少しずつ増えていくのかもしれません。
「また会いたい人がいるまち」。
CO-AKINAIマルシェで生まれた小さな出会いが積み重なり、その風景はこれからも草津の日常の中に広がっていくことでしょう。
