北岡 大地さん

東京都出身。人材派遣業に従事し、2019年、草津支店開設に伴う異動をきっかけに草津町へ移住。仕事を通じて外国人労働者の受け入れ支援に携わる中で、東南アジア食材店「The Essential Market」を立ち上げる。現在は観光客向けの「手ぶら観光サービス」の運営にも取り組むほか、消防団や温泉感謝祭など地域活動にも積極的に参加。人と人とのつながりを大切にしながら、草津の魅力を支える活動を続けている。

「草津のために何かしたい」そんな気持ちは最初からあったわけじゃない

北岡さんは東京出身なんですよね。

北岡:そうですね。もともとは東京です。草津には、東京時代から勤めている人材派遣会社が草津に支店を作ることになって、その事業を任せていただく形で7年前に移住しました。

The Essential Market / 北岡 大地

今では草津でさまざまな活動をされていますが、最初から地域に関わろうと思っていたんですか?

北岡:いや、全然そんなことはなかったですね。最初は自分のことで精一杯でした。生まれも育ちも東京で、草津のこともよく知らなかったし、他の地域で暮らすなんて考えたこともなかったので。とにかくまずは、任された自分の仕事を頑張ろうという気持ちでした。

草津に初めて来た時の印象はどうでした?

北岡:寒すぎて無理!!って思いました。暮らし始めたのが冬で、当時の草津の冬は今よりももっと寒くて。めっちゃ雪積もってるけど、雪かきとかやったことないし、友達もいないから誰を頼ったらいいのかもわからないし、遊ぶ場所もないし。みんな何が楽しくてこの町で暮らしてるんだろうって思って、しょっちゅう東京に帰ってましたよ。

それは心細いですね。そんな中でも新しい環境に飛び込んで行ったのは、チャレンジ精神が旺盛なタイプなんでしょうか?

北岡:チャレンジ精神ではなく、流されやすいだけですね。人材派遣業をやる前も、塗装屋、パチンコ屋、居酒屋といろんな仕事を経験してきたんですけど、どれも人から「やってみない?」と誘われて始めているので。今の仕事も、僕が中学生の時から知ってくれている今の会社の社長から誘われて転職したんです。今後の人生を見据えた時に、体の負担が少なくて、経済的にも安定する仕事はないかな?と考えていて、ちょうどいいなと思って。あと、外国人と関わる仕事にも興味があったし。

The Essential Market / 北岡 大地

外国人労働者の方を対象にした人材派遣業って大変そうなイメージです。

北岡:正直、最初は戸惑うことも多かったです。言葉の壁があるし、文化も違うし。日本では当たり前じゃないことが普通だったりするんですよ。例えば、日本人だったら喉が渇いてジュースを飲みたいと思っても、先に会計をしてから飲むのが当たり前じゃないですか。でも彼らは、ジュースを飲んでから「これ買います」って会計したりしていて。

すごいですね(笑)仕事を通じて関わり続けることで外国人への印象って変わりましたか?

北岡:変わりましたね。最初は、ちゃんと働いてくれるかな?とか思ったりしたけど、どちらかというと真面目な人が多いですよ。結局、日本人も外国人も同じだなと思ったんです。真面目な人もいるし、そうじゃない人もいる。一生懸命頑張る人もいるし、わがままな人もいる。外国人が問題を起こしたことがニュースになったりして、それが国全体のイメージになりがちだけど、でも、日本人だって悪いことをする人はいるじゃないですか。国籍じゃないんですよ。人それぞれなんです。仕事を通じてネパールやベトナムの人たちと関わる中でそういうことを学んで、「外国人だから」という一括りな見方はしなくなりました。

外国人労働者が暮らしやすい町にするために、東南アジア食材店をオープン

The Essential Market / 北岡 大地

仕事に軸足をおきつつ、町にはどのように馴染んでいったんでしょうか?

北岡:もともと人と話すのが好きで、お酒も好きなので、まずはスナックに通いました。そこでいろんな人とお酒を飲みながら話して、仲良くなって。「消防団に入りたいんですけど、誰にお願いすればいいんですか?」とか相談したりして。そういうやりとりを重ねていくうちに、だんだん地元の人から「あのイベント手伝ってくれない?」と声をかけてもらえるようになっていきました。

The Essential Market / 北岡 大地

地域活動に参加されるようになって感じたことってありますか?

北岡:なんでも町の人の力でやっちゃうところがすごいなって思いますね。毎年夏に開催される『温泉感謝祭』は東京でいうところの『隅田川花火大会』みたいなものだと僕は思っているんですけど、その規模のイベントを業者を入れずに地域のみんなで作るんです。すごくないですか?みんなが一つになってやり遂げる結束力がめちゃくちゃ強い。『温泉感謝祭』には実行委員として参加させてもらってるんですけど、僕みたいな移住者の声もしっかり聞いて反映させてくれるし。ビジネス的にメリットがないと人が動かないドライな東京の文化の中で生きてきた僕にとっては、人の繋がりでどんどん物事が進んでいく草津の熱い雰囲気が新鮮でした。その一員として加わっているうちに、草津に対する想いが強くなってきて、草津のために何かできないかな?と思うようになって。

その想いを形にしたのが「Essential Market」。

北岡:そうです。人材派遣の仕事をしている中で、外国人の子たちが辞めていく場面もたくさん見てきたんですよ。ただでさえ人手不足なのに働く人が減っていくって、僕らの事業としても痛手ですし、地域にとっても大きな問題じゃないですか。じゃあ何かできることはないか?と考えて、食に目を向けました。

なぜ食だったんですか?

北岡:草津で働くネパールやベトナムの子たちを見ていて、食べる物にいちばん困っているのかなって思ったんですよ。草津で日本人は当たり前に日本食を買えるけど、外国人の子たちはそうじゃない。自分の国の味が恋しくても、好きな食材や調味料が手に入らない。高崎や前橋まで行けばそういうお店はあるけど、そこまで行くのに時間がかかる。だったら、草津にその環境を作れないかなと思ったんです。マーケットがあることが、草津で暮らし続ける理由の一つになればいい。もちろん仕事なので商売として成り立たせる必要はありますけどね。でもそれだけじゃない。うちの社長がよく言うんですよ。「みんなが幸せなのが一番いいじゃん」って。僕もそう思うんです。

The Essential Market / 北岡 大地

The Essential Market / 北岡 大地

観光業の担い手を支えるライフライン。「みんなが幸せになる」お店作りのこだわり

「Essential Market」には、どんな人がきますか?

北岡:草津で働くネパール人やベトナム人の子たちが来てくれますよ。仕事終わりにフラッと立ち寄って買い物をしていく感じです。交流の場を作ろうと思って始めたわけではないんですけど、結果的にみんなが安心して利用できる場所にはなっているのかなと思います。

お店を運営する中で、印象に残っていることはありますか?

北岡:2024年7月にオープンして最初の8ヶ月くらいは僕が店頭に立っていたんですけど、やっぱり買いに来てくれる人たちの喜んでる姿を見られたことが印象に残っていますね。「こういう商品がほしい」とリクエストされたものを仕入れて、それが店頭に並んだ時の嬉しそうな顔とか。その顔を見た時、このお店を始めてよかったなって思いました。

The Essential Market / 北岡 大地

お客様の声を反映しながらお店作りをされているんですね。

北岡:自分たちが売りたいものを売るんじゃなくて、みんなが欲しいものを売る。その方がお店としてもいいと思っています。これまで取り扱った商品は600種類以上ありますけど、その多くは実際にお客さんの声を聞きながら増やしてきたものです。売れない商品はやめるし、要望が多いものは新しく仕入れる。そうやってみんなと一緒に作ってきた店なのかなと思います。特に人気なのは、『WAIWAI』っていうネパールのインスタントラーメンです。

「みんなが幸せなのが一番いい」をまさに体現されていますね。

北岡:みんなが喜んでくれて、自分たちも商売として成り立つ。それが一番理想ですよね。今、草津には600〜700人くらい外国人がいると言われているんですが、もしその人たちがいなくなったら草津の観光業はかなり大変になると思います。実際、みんな本当に頑張っていますからね。だからこそ、このまま草津を好きになってくれて、できるだけ長くいてくれたらいいなと思っています。そのために「Essential Market」が力になれたらと。

ネパールやベトナムの方を思う気持ちの強さに心打たれます。その原動力はどこから?

北岡:ネパール人だから、ベトナム人だから、じゃなくてやっぱり一人の人として関わりたいなと。さっきも言いましたけど、日本人も外国人も変わらないんですよ。言葉や文化、宗教の違いはあっても、同じひとです。彼らとも食事に行ったりしますし、草津を盛り上げる大切な仲間でもありますから。

草津の文化を次に繋ぐ、新たな挑戦とこれからの展望

The Essential Market / 北岡 大地

今後も事業展開の予定はありますか?

北岡:ちょうど新しいサービスを始めたところで。観光客の方の荷物をバスターミナルから旅館までお運びする「草津手ぶら観光サービス」という事業です。

どういうきっかけでスタートしたんですか?

北岡:言ってしまえば思いつきなんですけど(笑)観光客の方が自分で旅館に荷物を預けに行くのって、時間がもったいないなと思ったんですよ。限られた時間の中で草津に遊びに来てくれたのに、アップダウンの激しい坂道をキャリーケースを引いて歩くのは大変だし、時間も取られてしまう。そこを僕たちが代わりにお運びすれば、バスターミナルに着いた瞬間から観光をスタートできるじゃないですか。ひとつでも多くのお店や観光スポットを巡って、草津の魅力を知ってもらえたら嬉しいなと思っています。

草津全体の満足度を高めたいという発想なんですね。

北岡:そうですね。僕は観光の専門家ではないですけど、草津が好きだからこそ、「もっとこうなったらいいのに」と思うことはたくさんあります。観光客の方にも快適に過ごしてもらいたいし、地域で働く人たちにも無理なく働いてほしい。その両方が実現できる仕組みを作れたらいいなと思っています。
今後の目標はありますか?

北岡:大きな目標というよりは、今ある事業をしっかり続けていくことですね。「The Essential Market」もそうですし、「手ぶら観光サービス」もそう。新しいことを始めるのは簡単だけど、続けることの方が難しいと思うので。あとは、草津には本当に魅力的な文化や人がたくさんいるので、それを次の世代にちゃんと残していけたらいいなと思っています。

次の世代に残す、ですか。

北岡:例えば温泉感謝祭もそうですけど、地域の人たちが力を合わせて作り上げてきた文化ってたくさんあるじゃないですか。でも人口も減っていくし、担い手不足の話もよく聞きます。だからこそ、移住者とか外国人とか関係なく、「草津が好き」という人たちが一緒になって支えていけたらいいなと思うんです。草津で暮らしている人も、働いている人も、遊びに来てくれる人も、みんなで草津を面白くしていけたら最高ですよね。

【編集後記】

取材を通して印象的だったのは、北岡さんが繰り返し口にしていた「みんなが幸せなのが一番」という言葉だった。
外国人労働者のために始めた東南アジア食材店も、観光客の利便性を高める手ぶら観光サービスも、その根底にあるのは「誰かの困りごとを解決したい」という想いだ。
草津に来た当初は不安を感じていた北岡さん。しかし地域の人たちとの出会いを重ねる中で、この町への愛着を深めていった。そして今では、外国人労働者、観光客、地域住民をつなぐ存在として、新たな挑戦を続けている。
国籍や立場を超えて、人と人がつながることで生まれる新しい価値。その積み重ねこそが、草津をさらに面白くしていくのかもしれない。北岡さんの挑戦は、これからも続いていく。