大髙愛子さん
草津町唯一のベーグル店は3回目の改装を経て生まれた
本日はよろしくお願いいたします。天井が吹き抜けになっていて気持ちの良い店内ですね!
大髙:ありがとうございます。店内は2フロアになっていて、1階でご購入いただいたベーグルやサンドイッチは、2階のスペースでイートインできるような造りになっています。元々住んでいた自宅をリノベーションして現在のデザインになりました。
お住まいだった場所なのですね。大髙さんは草津町のご出身でいらっしゃるんですか?
大髙:はい、草津町で生まれ育ちました。草津町には高校がないので、中学卒業のタイミングで町を離れて以来、ずっと町外で過ごしていました。東京で2年ほど働いた時に結婚して子供にも恵まれたんですが、ある日、実家の事情で草津町に家族ごとUターンすることになったんです。5、6年いる予定が気付いたら定住していましたね。
草津町に戻ってくる前もカフェやベーグルに関するお仕事をされていたんですか?
大髙:いえ、完全に独学なんです。草津町に帰ってきてから実家の会社をずっと手伝っていたのですが、元々働いていたこともあり、新たに自立する方法を模索していたんです。それで何かお店を経営をしようと思った時に浮かんだのが、ベーグルだったんです。パンの中でもベーグルが特に好きだったことを思い出し、作りはじめてみたら思ったよりも上手に作れたので、そこから少しずつ構想を広げて行きました。町内にはベーグル店がないので、独自性を発揮できることも良かった点ですね。
そこから、いよいよお店づくりを始めていくと。
大髙:実は、現在の「ラッキーベーグル」の形になるまで、いくつかの段階がありました。まず一番はじめにオープンしたのは2006年。白根神社の裏に実家の店舗のスペースを活用した「カフェ・シンキチ」というカフェを運営していました。
「カフェ・シンキチ」! 以前はお店の名前が違ったんですね。
大髙:少しインパクトがある名前ですよね。「シンキチ」というのは、私の祖父の名前なんですよ。カフェとして営業するも、2011年の東日本大震災の影響を受けて、お店を畳むことにしました。そのタイミングで現在の居抜き物件を見つけ、自宅兼店舗として再度オープンすることにしました。
店内でお気に入りポイントはありますか?
大髙:「カフェ・シンキチ」時代も合わせると3回の店舗改装を経験しました。今回の改装は全体的にシンプルをコンセプトに仕上げてもらいましたが、ベーグルを並べるショーケースだけは一番力を入れました。お客様が店に入って最初に見るスペースなので、細部にまでこだわって家具専門店にオーダーメイドしました。初めはショーケースだけをお願いする予定でしたが、家具屋さんが思った以上に素敵なものを作ってくれたので、キャッシュトレイやイートインスペースの木製スツールも追加で注文してしまいました。
ウッド調で統一されていて素敵ですよね。内装も整い、再びスタートに立ったとき、どんな気持ちでしたか?
大髙:正直、すごく迷っていたんです。飲食業は過酷なので後ろ向きな気持ちも少なからずありました。でも他にやりたいことも見つからなかったので、とりあえずお店を続けてみようと決意を固めました。やるならせめて運を運んできてくれるような縁起の良い名前をつけたいなと思ったので、店名を「ラッキーベーグル」に決めました。我ながら単純ですよね。
口にするたびにご自身も元気になれる名前の方がいいですもんね!
地域の豆腐店とコラボした限定ヴィーガンベーグルも楽しめる
商品の種類が豊富ですね。ベーグルづくりで大事にしていることはありますか?
大髙:ベーグルは、北関東産の小麦粉「ゆめかおり」と、北海道産の小麦粉「はるゆたかブレンド」を半分ずつ練り込んで作っています。プレーンや全粒粉、ごまのレギュラーメニューから、日替わり、季節限定まで10種類ほどのベーグルを常時用意しています。ベーグルの魅力はやっぱり独特な食感。強い弾力感とモチモチ感にこだわっています。
日本のベーグル専門店を覗いてみると、ベーグル自体がそのまま販売されていて、まるで菓子パンのように食べる人が多いですが、海外で並んでいるベーグルは、中に野菜やクリームチーズなどを挟んだベーグルサンドのスタイルが多いんです。私自身、具材をいろいろ試している中で、ベーグルの可能性や魅力にハマってきた人なので「ラッキーベーグル」では、フィリングを挟んだベーグルサンドを看板メニューにしています。
ベーグルと具材の組み合わせを選んで、自分好みにアレンジできるのが嬉しいですね。お店のイチオシ商品を教えてください!
大髙:1番人気は『アボガドサーモンクリームチーズ』です。クリームチーズ、野菜、人気のスモークサーモンをたっぷり挟んでいるので、これを頼めばきっと満足してもらえるはずです。
確かに、食べ応えもありそうです。大髙さんは普段どのようにメニュー開発されているのですか?
大髙:私が食べたいものがそのままラインナップになっています(笑)。休みの日は、どこかへ必ず出掛ける人なんですけど、訪れた先のカフェや飲食店で「この組み合わせは面白い」「次はこういうの作ってみようかな」など常にメニュー作りを主軸に考えています。その小さなアイデアの積み重ねが、新しいメニュー開発につながっていますね。
たとえば、シーズナルメニューの『ベーコンハニーサンド』は、カフェのモーニングメニューでよく使われる、パンケーキと焼いたベーコンがルーツです。ある日、急に「そのメニューにクリームチーズを挟んだら、絶対おいしいはず!」とひらめき、ベーコンとクリームチーズ、はちみつをサンドした新メニューが生まれました。それぞれの食材は別メニューで使っていたのですが、10年以上その組み合わせが頭に思い浮かばなかったのは、まさに目からうろこでした。
季節限定メニューはどのようなものがありますか?
大髙:『キツネサンド』は、「ラッキーベーグル」の目の前のお豆腐店「喜久屋とうふ」さんの作りたての油揚げを照り焼き風味に味付けして、野菜と一緒にベーグルに挟んだメニューになります。草津町は観光地という土地柄、海外の方が多くいらっしゃるので、ベジタリアンの方でも楽しめる商品として喜んでもらっています。ヘルシー志向の方からも人気です。ちなみに、喜久屋とうふさんの豆乳はソイラテにしてドリンクメニューで提供しています。とっても濃厚で、まるで豆腐そのものを飲んでいるみたいなので、ぜひご賞味いただきたいです。毎朝作り立ての豆乳を受け取っているので、とてもフレッシュな味が楽しめます!
仕入れ先が店先にあるって最高ですね!
「一日の最後は草津の湯で締めたい」共同浴場は地域の“たまり場”
大髙さんから見て、草津町はどんな町でしょうか?
大髙:経営者の立場としては、人気の観光地である草津温泉の恩恵を感じることが多いです。もし繁華街でお店を開いていたら埋もれてしまうかもしれませんが、草津町は観光地ですので、温泉を目指して人が集まってきます。その流れで「ラッキーベーグル」を見つけてもらえるので、草津温泉という絶大なネームバリューに感謝しています。とはいえ、コロナ禍など大変な時期もありましたが、ようやくお店の名前を知ってもらえるようになってきたと実感しています。
「ラッキーベーグル」にはどんなお客様が来客されますか?
大髙:住民や観光客の方だけでなく、草津周辺地域の方もたくさん立ち寄ってもらえます。「ラッキーベーグルの味が好きだから」と定期的に通ってくださる常連の方もおり、ありがたい限りです。
大髙さんのこだわりを聞いていると、「ラッキーベーグル」の味を目当ての人がいる理由が分かる気がします。個人からみた草津町はどういう印象ですか?
大髙:草津町に感謝もしている一方で、実は未だに冬の寒さには耐えられません……。高齢になったら暖かい地域に住みたいなぁと考えると同時に、「やっぱり私は草津の温泉が好きなんだ」と気付かされることも度々あります。というのも、休日に他の温泉に行っても満足できず、草津に戻ってきたら必ず草津の湯に浸かってから寝る習慣が身に付いてしまいました。草津温泉の泉質が、本当に体に合っているのでしょうね。どうしても草津の湯で一日の最後を締めたいと思ってしまうんですから、不思議ですよね。
草津には6源泉(万代鉱・湯畑・白旗・西の河原・煮川・地蔵源泉)がありますが、大髙さんが特に好きなお湯は?
大髙:どの源泉も好きですね。今住んでいるリゾートマンションの浴場が湯畑源泉なので、一番親しみがあります。小さい頃は、町の至るところにある源泉かけ流しの共同浴場をよく利用していました。昔はお風呂なしの家も多く、共同浴場は地元住民にとって顔を合わせる場所だったんですね。親から「夕ご飯食べる前に行っておいで」と言われてお風呂に浸かってくるのが当たり前の日常でした。
それくらい草津の方にとって草津温泉は生活の一部であり、近い存在なんですね。
大髙:ベーグルを卸させていただいている町内のホテルや旅館の女将さんから、「たまにはお風呂に入りにいらっしゃいよ」とお誘いされることもありますね。一般的に言う「たまにはうちにお茶飲みにいらっしゃいよ」みたいな感覚だと思います(笑)。
お湯が人と人をつないでいるなんて、すごい! 草津町という地域性が見えてくる話ですね。
「『ラッキーベーグル』のようなお店をやってみたい」と憧れられるようなお店を目指して
これからチャレンジしてみたいことはありますか?
大髙:「やりたい」と思ったことはトライしてみる性格なので、趣味も含めて、ひと通り自分のやりたいことってやってきちゃったんですよね。最近だと、ジャズダンスを習っていて発表会も控えています。これからも引き続き、自分のやりたいことを叶えていける人生にしたいですね。今は旅行がマイブームなので、たくさんの場所に行ってみたいです。
草津町は人口が減少してきており、若い世代がとても少ないんです。高校生になると町内に高校がないため地域を出てしまうという背景もありますが、大人になって若者が戻って来た時に、「私も『ラッキーベーグル』のようなお店をやってみたい」と憧れてもらえるようなお店を目指したいです。もちろん、うちのような飲食店じゃなくても構いません。この町に戻ってきた時に、どこかに勤めるだけでなく、自分自身で起業したり仕事を作ったりするという選択肢が広がるきっかけになれたら嬉しいですね。
最後に読者にメッセージをお願いします。
大髙:私は一人旅が好きで、旅先でいろんなお店に足を運ぶのですが、入りやすいお店と入りづらいお店があるなと気付いたんです。「ラッキーベーグル」は、まさに私自身が行きやすいと思える理想を形にしたお店。家族や友人、カップルはもちろん、ひとりでも安心して食事を楽しめるような場所にしたいと思ってお店を作りました。草津温泉観光を楽しむ中で、旅の思い出のひとつに「ラッキーベーグル」を選んでもらえたら、幸せです。